降圧剤を処方されると、柑橘類の摂取制限を指示される事がよくあります。
ところが、何故NGなのかとか、どうすればOKになるのかという事を説明されないドクターが少なくありません。さらに、その指示さえ出されない事もあって、時に重篤な事態を引き起こす事もあるのです。
しかも、降圧剤を処方されたからと言って、必ずしも柑橘類が厳禁という訳ではありません。そこで、なぜ柑橘類がNGなのかを正しく理解するとともに、どうすればOKになるのかを考えてみましょう。
柑橘類殺人未遂事件の謎
フグやワライダケのように、この世には食べると死ぬかも知れない怖くて美味しい毒物が沢山存在します。でも、毒リンゴならぬ毒柑橘があるだなんて、聞いたことない、信じられないとおっしゃる方が圧倒的多数でしょう。確かに、みかんやオレンジ、グレープフルーツと言った柑橘類は、一般的には人畜無害で、誰でも自由に購入し、食べる事ができます。そのため、高血圧症の薬を処方された事のない方は、柑橘類が危険な食品だという事すら知らないかもしれません。
それどころか、ビタミン豊富で口当たりもいい柑橘類は、病気の人や弱っている人に是非オススメと思いがちです。しかし、お見舞いにもらった柑橘類を食べ、あやうく三途の川に投げ出されるという人もいるのです。
また、柑橘系の飲料を飲んで昏睡状態になる人もしばしば!! その事実は、人気医療ドラマの中にも出て来たほどです。もっとも入院している時なら、すぐに適切な処置が施されますから、再びこの世に返り咲けるでしょう。でも、自宅で一人暮らしをしておられる方ならどうなるか? 想像すると、冷や汗が出て来そうです。
では、何故、このような恐ろしい事態が発生するのでしょうか? 柑橘類殺人未遂事件と言われるぐらいですから、もちろん凶器は柑橘類です。そうなると、やっぱり毒リンゴならぬ毒柑橘がある事を認めざるを得ないでしょう。
事実、グレープフルーツや夏みかんなどの柑橘類には、フラノクマリンという毒素が含まれています。フロクマリンと呼ばれる事もあるこの物質は、植物が自らを守るために体内で生成する有機化合物で、虫をイチコロにする事もできる強力な毒素なのです。
とは言え、幸いにも、人体に対してはさほど大きな影響力はなく、普通の人はグレープフルーツや夏みかんを食べて死ぬという事はないでしょう。ただし、特定の降圧剤との相性が極端に悪く、フラノクマリンとその降圧剤が体内で出会ってしまうと、『過剰に活性化される』か、『全く活性されない』かの二つに一つ!!
恐らく、前者は敵に負けまいとして奮起するもので、後者は苦手なヤツを目の前にとっとと退散するパターンだと思われますが、いずれにせよ、身体へのダメージは小さくありません。もし薬が働かないとなると、血圧は上昇し、動脈硬化や虚血性心疾患、脳卒中などの大病を引き起こしかません。逆に、効き過ぎたら効き過ぎたで、今度は急激に血圧が下がってしまうため、たちまち危篤状態に陥るのです。
柑橘類殺人未遂事件を防ぐには!?
こうして柑橘類殺人未遂事件は発生する訳ですが、前述の通り、フラノクマリンを含んでいるのは柑橘類だけではありません。植物なら多かれ少なかれ、自分たちの体内で生成しています。ただ、柑橘類は全般的にフラノクマリンの含有量が多く、取り分け、その最高級なのがベルガモットとグレープフルーツです。また、ゆずもフラノクマリン豊富で、凶器になりかねないと言えるでしょう。
実際問題、ゆずは、日本料理では風味付けに頻繁に用いられる果実です。また、ベルガモットは、紅茶や洋菓子によく使われる人気のハーブ。いずれも、その香りから癒やしの力が強く、アロマテラピーに使用される事も少なくありません。しかし、その精油が原因で、「光線過敏症(こうせんかびんしょう)」という皮膚疾患を引き起こす事もあるのです。
ならば、高血圧症が発覚すると一切、柑橘類が食べられない、柑橘系飲量を飲めないという事になるのでしょうか?
もしそうなら、今や日本人の3人に1人が血圧高めと言われる時代です。これはみかん農家にとっては死活問題にもなりかねません。また、果汁飲料の王道とも言えるオレンジジュースの消費量が激減する事から、飲料メーカーにとっても一大事です。
フラノクマリンを正しく理解しよう
厳密に言うと、フラノクマリンというのは有機化合物の一つのグループ名で、正しくは「フラノクマリン類」。いくつかの物質があるわけですが、降圧剤との相性が悪いのは、次の2つです。
- ベルガモチン
- ジヒドロキシベルガモチン
それを多量に含んでいるのがグレープフルーツやベルガモット、そして、ゆずなのです。また、ザボンこと文旦(ブンタン)、ハッサク・夏みかん・ダイダイ・スイーティー・ポンカン・キンカンなども危ないフラノクマリンを含む柑橘類です。
その一方で、温州みかんやカボス、レモンなどが含むフラノクマリンは、降圧剤に悪影響を与える事がないものと見られます。他にも、バレンシアオレンジやマンダリンオレンジ、ネーブルオレンジなども問題ないという事で、国内で市販されているオレンジジュースやみかんジュースは普通に飲んで大丈夫という事になるでしょう。
ですが、これだけついつい手を出しそうな柑橘類が危ないとなると、本人はもちろん、家族や周囲の人たちも十分気を付ける必要があります。へたをすると、香りのいい紅茶を出したために殺人未遂罪(?)に問われる事にもなりかねず、知らないとそれこそ危険です。
血圧が高そうなお客様には、紅茶やハーブティーではなく、日本茶やコーヒーを出すのが無難。また、お見舞いの果物かごの柑橘は、ネーブルやバレンシアオレンジにするのが安全でしょう。そして、料理の風味付けは、ゆずではなく、かぼすやレモンでというのが無難です。
実は高血圧症でも全ての柑橘類がOKになる?
柑橘類殺人未遂事件を防ぐには、フラノクマリンを含むもの、含まないものをきちんと区別する必要があります。とは言え、これは良くてこれは駄目なんていちいち考えるのは、特に周囲の人にしてみれば、甚だめんどうで迷惑な話でしょう。もちろん本人も、例え自分の不摂生が招いた高血圧症であっても、できれば何とかしたい状況だろうと思われます。
そこで、ドクターに交渉!! その結果次第で、容易に打開できるかも知れないのです。
確かに、降圧剤を服用している人がフラノクマリンを含む柑橘類を食べて大事に至る事が少なからずあります。ただし、降圧剤と一口に言ってもいろいろなタイプがあって、現在日本で処方されるのは主に8種類。
その中で柑橘系を大敵とするのは、カルシウム拮抗薬 と呼ばれる薬品ただ一つなのです。ですが、最も多く処方されている薬だけに、
- 高血圧症にはカルシウム拮抗剤 ⇒ カルシウム拮抗剤服用者にはグレープフルーツや夏みかんは危険
という図式が確立されているのでしょう。
カルシウム拮抗薬はその名の通り、カルシウムの進入をブロックし、血管平滑筋(けっかんへいかつすじ)という血管内の筋肉の柔軟性を維持します。
元々血圧が高い状態は、血管平滑筋が収縮したまま弾力を失う事によって起こり、その平滑筋を強固にするのがカルシウムイオンなのです。ですから、そのカルシウムをシャットアウトする拮抗剤は、高血圧症の改善には非常に有効的と言えます。そのため、多くのドクターが率先して用いる高血圧剤で、国内の高血圧症患者のうち、3分の2以上が処方されているそうです。
しかし、ほかの7種類がこれに劣るのかと言えば、決してそうではありません。むしろ、他の持病や体質との兼ね合いによっては、カルシウム拮抗剤以上に効力を発揮する可能性の高い薬も存在します。また、効き目は穏やかでも、副作用の少ないものもあり、カルシウム拮抗剤以外の降圧剤を使うという選択肢は多くの方に用意されていると見ていいでしょう。
「カルシウム拮抗剤ではない降圧剤を使う」という選択肢
固定観念を捨ててみましょう。
- 高血圧と診断されたからカルシウム拮抗剤が処方されるのはしかたがない
- カルシウム拮抗剤を飲んでいるから柑橘類に気を配らなければならないのもしかたがない
と、思い込んでいませんか?
自分がそれなりの知識を持っていれば、ドクターときちんと話し合いをする事ができ、悩みや苦悩が解決される事も大いにあり得るのです。
今からでも遅くありません。血圧は高いけど、柑橘類を安心して食べてみたいと思われる方は、主治医に相談してみましょう。
<ライター:健康通(けんこうどおり)>