食の知識&健康

なぜ、七草がゆで胃や腸の調子を整えられるのか

1月7日の朝は「七草がゆ」で弱った胃や腸の調子を整えるというお宅は多い事でしょう。

でも、七草がゆには本当に消化器官の疲労回復を促す効果効能があるのでしょうか?

何でもすぐ疑問や疑いを持つ筆者としては、これは実に気になるところ!
調べずにはいられないという事で、早速調べてみました。

『春の七草』たちのプロフィール

セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ、スズナ・スズシロ

これぞ春の七草!
という事で、春の七草は、毎年1月7日に食べる七草がゆに入れる上記7種類の若菜の総称です。でも、野生の七草を見かける事の少なくなった昨今、その正体は意外と知られていないもの。
例えば、ナズナがペンペン草の事だとか、スズシロが大根の葉っぱだという話を聞いて驚く人は少なくありません。そこで、まず、春の七草たちのプロフィールを見てみましょう。

芹(セリ)
川辺や湿地など、水分の多い土壌を持つ場所に生育する野草。田舎では、稲作が開店休業状態となった休耕田やその周辺のあぜ道でもよく見かけます。

色は主に黄緑色。ただ、冬場は時土器赤っぽく染まったりもしています。

這うように長さ30cm程度に伸び、菱形の葉を鳥の羽のように両側に付けているのが特徴。まるで競い合うように土の上を這い、群生するところからこの名が付けられました。「白根草(シロネグサ)」と呼ばれる事もあります。

薺(ナズナ)
“ペンペン草”の相性で親しまれる長さ30cm前後の野草。ペンペン草を食べるとなると、ちょっと抵抗のある人もいるかも知れませんが、実はナズナはキャベツや菜の花、クレソンなどと同じアブラナ科の植物で、昔から日本では、食糧難が否めない冬期の貴重な野菜として重宝されて来ました。

実際、秋に芽生え、冬に若葉を出すナズナは、お正月のころが最も柔らかく食べ頃。その後、春に花盛りとなり、夏には枯れてしまいます。そんな夏には枯れてしまうところから、「夏無(なつな)」と呼ばれていたのが転じてナズナになったのだとか・・・!?

因みに、相撲の行司が持つ軍配のような形をした花を咲かせ、その下に、三味線の撥ににた実を付けるところから、ペンペン草という愛称が付けられました。

御形(ごぎょう)
正式名を「母子草(ははこぐさ)」といい、ネズミの耳に似たへら型の葉を互い違いに付けます。

大昔の日本では、ヨモギではなく、この母子草を使って草餅を作っていました。特に桃の節句には、人形の前に必ず母子餅を飾る習慣があったところから、雛飾りを形成する重要なパーツを作る草という事で御形という俗称が付けられたと言われています。

漢字で書くと、何だか気難しそうなイメージもありますが、実は、最も道ばたで見かける確率の高い野草。白い綿毛があるのが特徴のキク科の植物です。

繁縷(ハコベラ)
“ハコベ”と呼ばれる事も多いかと思いますが、実はハコベは、「ナデシコ科ハコベ属」に属する植物の総称になります。

春の七草として食べられるハコベは、そのハコベ属の1種である「コハコベ」と呼ばれる越年草です。

田畑のあぜ道で見かける事の多い、先の尖った卵形の葉を付ける長さ10cmから20cmの野草。縦に一列に毛を生やしているのが特徴です。

春になると小さな白い花を付けるのが特徴で、その際、茎から出て来た白い糸が群れるように見えるところから、元々は“ハクベラ”と呼ばれていました。“ベラ”は群がる事を意味する古語で、それが転じて繁縷となったと言われています。

仏の座(ホトケノザ)
昔は初春の水田に付きものだった野草で、その葉は、仏様が座っているように見えたところから、この通称が付けられました。正式には、「小鬼田平子(コオニタビラコ)」というキク科の越年草です。

因みに、インターネットなどで「ホトケノザ」と検索すると、今では「三階草(サンガイグサ)」というシソ科の植物が出て来る方が多くなりましたが、こちらは食用ではありませんので、ご注意を・・・!!

菘(スズナ)
スズナは何を隠そう、蕪の葉っぱの事! 元々菘という表記自体、蕪の古名でした。どうやら当時としては、最も小さな根菜類という事で、最小を意味する“ササ”が転じて、いつしか“スズ”と呼び、菘と称されていたようです。

しかも、幸いにも、蕪は鈴によく似ているところから、後に、鈴菜という表記も使われるようになり、特にその葉はスズなとして定着しました。

蘿蔔(スズしろ)
鈴菜が蕪の古名だったというのはビックリですが、蘿蔔もまた、何を隠そう、大根の古名です。元々涼しげな白い色をした大根は「清白」と書いて“スズシロ”と呼んでいました。

それが何故、こんな難しい漢字表記にわざわざ変更されたのかは、ちょいと名の通った大学教授にも分からないそうですが、少なくとも、蘿蔔の「蔔」は大根を意味する漢字です。恐らく、昔は人も動植物も、今ほど飽食ではありませんでしたから、全体的にスリムだったのでしょう。

事実、今でも春の七草セットに入っている蘿蔔の大根は羨ましいほどスマートです。正しく色白の美しい足を想像させます。それがいつの間にか、大根足イコール太い足という事で、あまり嬉しくない表現になりました。それと同じように、漢字表記もまた、ずっしりと重みを増したのかも知れませんね。

今では春の七草と言えば、ワンパックになってスーパーの店頭に並ぶものと決まっていますが、こうしたプロフィールを見ると、今年は野山へ探しに行ってみたくなりませんか?
また、たとえ購入するにしても、今までは、子供に一つ一つ説明する事が出来ないお母さんも多かったと思われます。けれど、個々の特徴さえ分かれば、もうバッチリでしょう。

必要なのはビタミンとミネラル

春の七草たちのプロフィールが分かったところで、いよいよ気になる中身。彼らの持つ栄養価を探ってみましょう。果たして、胃や腸の調子を整える成分は本当に含有されているのでしょうか?

そもそも私たちが日々の食事から摂取する栄養素は、全てがエネルギー源になる訳でも、体を作る材料となる訳でもありません。基本的にエネルギーとなるのは糖質と脂質で、不足した時にはタンパク質が補います。

一方、体を作る時に主原料となるのがタンパク質で、身体の全ての部位の構築に関わっていると言っていいでしょう。プラス、細胞膜は脂質が骨や歯はカルシウムやマグネシウム、リンといったミネラルが形成します。因みに、リンは筋肉の構成にも役立っていますが、事あるごとに重要視されるビタミン、これはエネルギー源にも、肉体作りの主原料にもなりません。ちょっと意外に思われるかも知れませんが、ホントの話です。

と、こんな事を聞くと、“なんだ、だったらやっぱ野菜なんか無理に食べなくてもいいんじゃん!!”とおっしゃる方も多いかと思いますが、それはとんでもない間違い。車に例えて言うと、タンパク質たちが作るのは車体で、糖質たちが作るのはガソリンです。つまり、車を造ってガソリンを入れました。じゃあ、誰が運転するの? という事になりますよねぇ!? そう、その運転手の役割を果たすのがビタミンなのです。

いくら高性能な車に高級のハイオクガソリンを入れても、ドライバーの調子が悪ければ、その車はフルに機能を発揮し、快適な走りをする事が出来ません。一方、少々ポンコツ車でも、運転手の腕が良ければ、面白いほど快調に走ります。つまり、ビタミンは身体の調子を整える栄養素で、代謝や消化を円滑に行えるかどうかはビタミンに掛かっていると言っていいでしょう。また、助手席に乗り込み、ナビゲーターの役割を果たしながら、時に控えの運転手としても活躍する各種ミネラルも重要で、ビタミンとミネラル豊富な食材は、私たち人間が快適な日々を過ごすためには必要不可欠な存在なのです。

当然、胃や腸の調子を整え、消化機能を高めるのもビタミンやミネラルの働き次第という事になるでしょう。そこで、お正月の暴飲暴食で疲労困憊した消化器官をいち早く回復させるには、良質なビタミンとミネラルを摂取する事が必要になります。ならば、春の七草たちには、どのくらいのビタミンやミネラルが含まれていて、どのような効果効能があるのか? 後半は、その辺りを探ってみたいと思います。

春の七草の栄養価

七草がゆは、年末年始の暴飲暴食で疲労困憊した胃や腸の調子を整え、消化機能を回復させるために頂くものだと言われています。だとしたら、良質なビタミンとミネラルを含む食材でなければならない訳ですが、その点、春の七草は元々野山に勝手に生える草や野菜の葉っぱです。正しく雑草魂で、巧みに生き抜くだけの実力の持ち主! どれもこれもビタミン&ミネラル豊富な野菜ばかりだと見られ、選ばれるべくして選ばれた7人の救世主だと言えるでしょう。

セリ・ナズナvsホウレン草

春の七草は間違いなく食品です。ただし、大根の葉のスズシロと、お鍋などに使われる事の多いセリ以外、店頭で積極的に市販される野菜ではありません。どちらかと言うと雑草で、フルメンバーで登場するのは1月初旬の七草がゆシーズンのみ!! そのため、厚生労働省が野菜と認め、積極的に成分を分析しているのは、セリとナズナくらいです。そこで、取り敢えずは、厚生労働省も認める野菜であるセリとナズナの100Gあたりのビタミン含有量とミネラル含有量、おまけとして、食物繊維の総量を見てみましょう。栄養価の高い葉物野菜の代表格と言われるホウレン草と、いざ、勝負です。

ビタミンA
セリ・・・1900μg
ナズナ・・・5200μg
ホウレン草・・・4200μg
ビタミンB1
セリ・・・0.04mg
ナズナ・・・0.15mg
ホウレン草・・・0.11mg
ビタミンB2
セリ・・・0.13mg
ナズナ・・・0.27mg
ホウレン草・・・0.20mg
ビタミンB3(ナイアシン)
セリ・・・1.2mg
ナズナ・・・0.5mg
ホウレン草・・・0.6mg
ビタミンB5(パントテン酸)
セリ・・・0.42mg
ナズナ・・・1.10mg
ホウレン草・・・0.20mg
ビタミンB6
セリ・・・0.11mg
ナズナ・・・0.32mg
ホウレン草・・・0.14mg
ビタミンB9(葉酸)
セリ・・・110μg
ナズナ・・・180μg
ホウレン草・・・210μg
ビタミンC
セリ・・・20mg
ナズナ・・・110mg
ホウレン草・・・35mg
ビタミンE
セリ・・・0.8mg
ナズナ・・・2.5mg
ホウレン草・・・2.3mg
ビタミンK
セリ・・・160μg
ナズナ・・・・・・330μg
ホウレン草・・・270μg
ナトリウム
セリ・・・19mg
ナズナ・・・3mg
ホウレン草・・・16mg
カリウム
セリ・・・410mg
ナズナ・・・440mg
ホウレン草・・・690mg
カルシウム
セリ・・・34mg
ナズナ・・・290mg
ホウレン草・・・49mg
マグネシウム
セリ・・・24mg
ナズナ・・・34mg
ホウレン草・・・69mg
リン
セリ・・・51mg
ナズナ・・・92mg
ホウレン草・・・47mg
セリ・・・1.6mg
ナズナ・・・2.4mg
ホウレン草・・・2.0mg
亜鉛
セリ・・・0.3mg
ナズナ・・・0.7mg
ホウレン草・・・0.7mg
セリ・・・0.15mg
ナズナ・・・0.16mg
ホウレン草・・・0.11mg
マンガン
セリ・・・1.24mg
ナズナ・・・1.00mg
ホウレン草・・・0.32mg
食物繊維
セリ・・・2.5g
ナズナ・・・5.4g
ホウレン草・・・2.8g

こうして見てみると、どちらか一方なら厳しくても、セリとナズナの2人組でホウレン草に立ち向かえば、栄養価的には圧勝です。元々ビタミンで見ると、ホウレン草がセリとナズナの両者に勝てるのはビタミンB9こと葉酸だけ! さらに、ミネラルにおいても、カリウムやマグネシウムはホウレン草がダントツでトップですが、それ以外は互角か、ホウレン草の負けではありませんか!!

ただ、7種類のうち、たった2つが優秀でも、他の5つの出来が悪ければ足を引っ張ってしまいます。ところが、他の5つについては、残念ながら、内容成分と含有量は明確にされていません。とは言え、スズナとスズシロについては、大根の葉や蕪の葉という事で、比較的容易に調べが付きます。

本体より葉っぱの方が栄養満点

という事で、スズナとスズシロを蕪の葉、大根の葉として調べてみると、もう一つ注目すべきポイントが出て来ました。それは、蕪本体、あるいは、大根本体との栄養価勝負の結果です。スズナやスズシロとして春の七草になるともてはやされますが、普段はと言うと、ただの蕪の葉、ただの大根の葉として捨てられがち。でも、本当に、そんなに容易にゴミにしてしまっていいのでしょうか?

ビタミンA
スズナ・・・2800μg
蕪本体・・・0μg
スズシロ・・・3900μg
大根本体・・・0μg
ビタミンB1
スズナ・・・0.08mg
蕪本体・・・0.03mg
スズシロ・・・0.09mg
大根本体・・・0.02mg
ビタミンB2
スズナ・・・0.16mg
蕪本体・・・0.03mg
スズシロ・・・0.16mg
大根本体・・・0.01mg
ビタミンB3(ナイアシン)
スズナ・・・0.9mg
蕪本体・・・0.6mg
スズシロ・・・0.5mg
大根本体・・・0.3mg
ビタミンB5(パントテン酸)
スズナ・・・0.36mg
蕪本体・・・0.25mg
スズシロ・・・0.26mg
大根本体・・・0.12mg
ビタミンB6
スズナ・・・0.16mg
蕪本体・・・0.08mg
スズシロ・・・0.18mg
大根本体・・・0.04mg
ビタミンB9(葉酸)
スズナ・・・110μg
蕪本体・・・48μg
スズシロ・・・140μg
大根本体・・・33μg
ビタミンC
スズナ・・・82mg
蕪本体・・・19mg
スズシロ・・・53mg
大根本体・・・11mg
ビタミンE
スズナ・・・3.2mg
蕪本体・・・0mg
スズシロ・・・3.8mg
大根本体・・・0mg
ビタミンK
スズナ・・・340μg
蕪本体・・・0μg
スズシロ・・・270μg
大根本体・・・微量
ナトリウム
スズナ・・・15mg
蕪本体・・・5mg
スズシロ・・・48mg
大根本体・・・17mg
カリウム
スズナ・・・330mg
蕪本体・・・280mg
スズシロ・・・400mg
大根本体・・・230mg
カルシウム
スズナ・・・250mg
蕪本体・・・24mg
スズシロ・・・260mg
大根本体・・・23mg
マグネシウム
スズナ・・・25mg
蕪本体・・・8mg
スズシロ・・・22mg
大根本体・・・10mg
リン
スズナ・・・42mg
蕪本体・・・28mg
スズシロ・・・52mg
大根本体・・・17mg
スズナ・・・2.1mg
蕪本体・・・0.3mg
スズシロ・・・3.1mg
大根本体・・・0.2mg
食物繊維
スズナ・・・2.9g
蕪本体・・・1.5g
スズシロ・・・4g
大根本体・・・1.3g

三手の通り、蕪も大根も実は本体より葉っぱの方が栄養満点! 特に、大根や蕪にビタミンAやEが含有されていなかったなんて、思わず目が点になりそうな真実でしょう。改めて、葉っぱであるスズナやスズシロは、根っこである蕪本体や大根本体の栄養をグイグイ吸収して、すくすく育っているのだという事を痛感せずにはいられません。

七草がゆは漢方の知恵の一杯

こうして春の七草のうち、4種類だけを見ても、体調を整えるには十二分なビタミンとミネラルが含有されている事が分かります。こうなると、何が何でも残る3つの野草の効果効能も知りたくなります。実際、いずれも古来から日本の食文化の中に根差し、漢方でも大いに活用されて来たものばかり、その間に、様々な効果効能が発見されています。

例えばハコベラなどは、タンパク質も豊富な中国4000年の歴史が誇る薬草! 複数のビタミンB群とビタミンC、さらに、カルシウムやカリウムなどのミネラル類もしっかり含んでいる事がすでに確認済みで、カロテノイドやフラボノイド、サポニンなどが含有されている事も明らかになっています。そのため、高い整腸作用と利尿作用が得られ、デトックス効果大!! 年末年始の暴飲暴食の付けを一気に返済出来るかも知れません。

またゴギョウも、花が咲く頃になると採取し、天日で乾燥させると「鼠麹草(ソキクソウ)」という方剤に変身します。そして、煎じて飲むと咳や痰の絡みが抑えられるとされ、風邪の流行る時期には大活躍! たんぱく質やミネラルが豊富で、高い抗酸化作用を持つポリフェノールの一種「ルテオリン」や「ケルセチン」なども含んでいますから、年が明けても歳を取らない体作りが出来るかもです。

加えて、食物繊維豊富なホトケノザは、正しく食欲増進を図るには相応しい成分を持つ雑草らしく、春の七草の中では最も確実に胃腸の働きを整えるという噂もあります。解熱作用や鎮痛作用もあるので、飲み過ぎで火照った体と頭を冷やすのにも最適かも知れません。

さらに、ビタミン&ミネラル豊富である事がすでに立証されているセリ・ナズナ・スズナ・スズシロについても、その含有量とバランスから、様々な効果効能が期待出来ます。特にセリは、免疫力強化と疲労回復の一石二鳥が目指せる食材。他に、食欲増進・解熱・利尿・去痰などの効果も漢方では当たり前とされています。

そして、蕪や大根といった根菜類は、元々「ジアスターゼ」と呼ばれるでんぷん分解酵素や「アミラーゼ」と呼ばれるタンパク質分解酵素が含まれ、胃の働きをサポートする事で有名です。勿論、その消化促進作用は、葉っぱであるスズナやスズシロにも受け継がれていて、他に解毒・咳止め・去痰・利尿・吹き出物改善といった効果効能も持ち合わせています。見るからにスッキリを実現出来るかもです。

因みに、ナズナにも、止血・消炎・鎮痛・利尿・解熱・下痢止めといった漢方的作用がありますから、七草がゆは、消化器官の疲労回復だけでなく、風邪やインフルエンザが流行る時期に食べる健康メニューとしても相応しいと言えるでしょう。そう、七福神のように、身体に様々な効果効能をもたらせてくれる漢方の知恵の一杯なのです。

どうして7日正月に七草がゆを食べるのだろう?

七草がゆで本当に胃や腸の調子を整えられるのかという疑問については解決したと言えるでしょう。春の七草の個々の栄養価や効果効能から検証すると、間違いなく、消化器官の回復を促す作用はあるものと思われます。だから、7日正月には七草がゆを食べようという訳ですが・・・、だったらわざわざ1月7日まで待たなくても、三箇日が終わってすぐ食べればいいと思いませんか? という事で、何故、七草がゆは1月7日に食べるものという暗黙のうちのルールがあるのか? どうせなら、ここまで調べてみようとしてビックリ!! 元々は神のお告げならぬ仏のお告げだったというのです。

実は七草がゆの始まりには、こんな中国昔話が・・・!!

昔々、中国が唐の時代だった頃のお話です。楚(そ)の国と呼ばれた王国に、大しうという青年がいました。青年と言っても、両親の年齢がすでに100歳を超えていたそうですから、おじいちゃんだったかも知れませんが、そんな年老いて心身ともにボロボロになってしまった両親を見るのが辛い。そう思い、嘆き悲しんだ大しうさんは、21日間の山ごもりをし、“私に老いを移してもいいので、どうか両親を若返らせてください!”とひたすら供養したのです。すると、天界に済む仏教の守護神の一人「帝釈天(たいしゃくてん)」からお告げがありました。神のお告げならぬ、仏のお告げです。

そなたの願いを聞き入れた。須弥山(しゅみせん)の南に齢8000年の白鵞鳥がいるが、この秘術をぬしら親子に授ける。ついては、 毎年春のはじめに七種の草を食べる事。それに際し、1月6日までに7種類の草を集めておく事というもので、次の時刻に柳で作った器に種を載せ、玉椿の枝で叩いて下ごしらえをするしておく事という指示まで出されました。その手順が次の通り。

  • 酉の刻から芹
  • 戌の刻から薺
  • 亥の刻から御形
  • 子の刻から田平子
  • 丑の刻から仏座
  • 寅の刻から菘
  • 卯の刻から清白
  • 辰の刻からこれらの種を合わせ、東から清水を汲んで来て、これを煮て食べる事。

と、正しく春の七草で作る七草汁ではありませんか!!
なんでも、このスープを飲むと、一口で10歳、七口で70歳若返るので、ついには8000年生きる事ができる言うのです。

このお告げを聞いた大しうさんは、早速山を降りて7種類の草を集め、6日の夕方から教えの通り、夜通し草を叩きました。そして、朝になり、東から汲んだ水で炊いて両親に食べさせたところ、たちまち若返りが起こったのであります。
めでたしめでたし!!

人の日は七草がゆで

まあ上記の物語は、あくまでも民話ですが、元々中国には、「人の日」に七草がゆを食べるという習慣がありました。この事は、3世紀頃から7世紀頃までの中国南方、長江揚子江(ようすこう)流域の文化を記した「荊楚歳時記(けいそさいじき)」に記されていますから、恐らく実話だったと思われます。

「人の日」とは、新年明けて7日目の人を労る日の事。大昔の中国では、毎年お正月の間、多くの生き物に敬意を表し、彼らを労る日を設けていました。例えば元日は「酉の日」、2日は「犬の日」、3日は「猪&豚の日」、4日は「羊の日」で、5日が「牛の日」、6日が「馬の日」。そして、酉の日には鶏を、牛の日には牛肉を食べないのがお約束でした。つまり、酉の日にはフライドチキンはNG、猪&豚の日にはぼたん鍋やトンカツはNG、羊の日にはジンギスカンはNG、牛の日には牛丼はNG、馬の日には馬刺しはNGという訳です。

そして、1月7日は人の日! 「人日(じんじつ)」とも呼ばれたこの日は、当然ですが、人の命を大切にする日です。とは言っても、元々人が人を殺生するのは犯罪ですから、それまでの6日間とは少々スタンスは違って来ます。勿論、この日に殺人事件を起こすなどはもってのほかで、たちまち死刑が宣告されたものと思われますが、その死刑執行も行わないという日でした。しかし、それとは別に、体に優しい粗食で我が身を労るとともに、他の動物たちの命も大切にし、心安まる日にしようというルールが設けられたのです。そう、これまでの6日間に登場しなかった魚介類たちも殺生を免れる日だったんですね。

そこで食べる事になったのが「七種菜羹(ななしゅさいあつもの」! 羹とは、とろみのある汁物の事で、先のような春の七草を中心とした7種類の薬草を入れる事により、1年間の無病息災を祈願しようというものでした。

人の日に七草がゆで

一方、日本では、奈良時代から新春の天気のいい日には、野山に出掛け、雪の下から芽を出した若菜を摘むという風習が貴族の間にありました。当時は旧暦でしたから、新春と言えば2月上旬、ちょうど野草の新芽が出る頃です。その模様を詠った歌が万葉集には何首もありますから、これも実話だと思われます。ただし、それは日常的なもので、特定の日の特定の行事という訳ではありませんでした。勿論、摘んだ若菜は美味しく頂くという事にはなっていたものと見られますが、羹やおかゆにするという習慣があった訳でもなさそうです。

それが平安時代に入ると、中国から先の人の日のイベントが伝わり、大きく変化します。当時の法令をまとめた日本三大格式の一つである「延喜式(えんぎしき)」という資料には、“七日新菜御羹、奉作、太神宮拝荒祭宮供奉”とあり、毎年1月7日には、若菜を入れた羹を神様にお供えする事と法律で定められていたというからビックリでしょう。

ただし、これはあくまでも羹で、しかもお供え物。七草がゆを食べよという指令ではありませんでした。しかし、それとは別に、平安時代の宮廷の仕来りを記した「弘仁式(こうにんしき)」には、「七種粥の儀」というのが掲載されていて、1月15日に米・粟・黍(きび)・稗(ひえ)・みの・胡麻・小豆のの7種類の穀物を入れた「餅がゆ」というおかゆを食する事になっていたのです。

さらに、それとは関係なく、貴族たちの若菜摘みの風習は続き、「若菜の賀(わかなのが)」という行事として定着して行きました。この若菜の賀は、野山で摘んで来た野草を沈香(じんこう)という香木で作ったお盆に盛り、その色や香りを楽しんだ後、羹にしていただくというもの。特に七草に拘った訳ではなく、ヨモギやワラビなど、春に新芽を出す食べられる野草なら何でもOKという事でしたから、多い時には10種類以上の野草が入った豪華な薬草スープになる事もあったのだとか・・・!?

ところが、気が付くと、この2つの風習は見事に合体し、鎌倉時代には、今の7日正月に春の七草を入れた七草がゆを食べるという行事は確立されました。当時の随筆か:鴨長明(かものちょうめい)が記した「四季物語 第1巻き 春の部」には、“七種のみくさ集むること人日菜羹を和すれば一歳の病患を逃るる”とあります。

悠久に想いを馳せて

思えば中国では1000年以上も、日本でも500年に渡って連綿と受け継がれて来た風習、それが7日正月の七草がゆです。

「人の日」に七草がゆを食べながら、命の尊さを家族で話し合ってみませんか?

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