これでキノコ嫌いは克服できるかも!?
確かに、シメジにせよ、エリンギにせよ、マツタケにせよ、1000分の1ミリという目に見えない小さな小さな胞子が発芽して細い細い菌糸を作り、そこからあの長さ、あの太さの柄と子実体を作るのです。キノコの生命力のすごさは言うまでもありません。そして、私たち人間は、そのキノコパワーを美味しく頂戴する術を知っている恵まれた動物。その特権を生かさない手はないでしょう。
原木栽培のキノコを食べてみよう
という事で、賢い日本人は、昔から総じてキノコ大好き民族。長年にわたり、沢山のキノコを美味しく食べて来ました。ところが、実際には、どうしてもキノコが嫌い、食べられないと言う人、あるいは、子供や旦那が食べてくれなくて困っておられる方は少なくありません。特にシイタケなどは、日本人の好きな茸第1位でありながらも嫌いなキノコ第1位で、取り分け、子供に嫌われる食材ベスト5の常連です。シイタケ嫌い、キノコ嫌いの小中学生は大勢いるものと思われます。
そこで、どうすればみんなキノコ大好きになれるのかという事ですが、それにはやっぱり美味しいキノコを知る事が大切でしょう。という事で、先にも書いた通り、原木栽培のキノコが出回る10月下旬から11月上旬が、キノコ嫌いを直す絶好のチャンスです。出来れば家族でシイタケ狩りに出掛け、現地で取り立てのシイタケを肉と一緒に焼いて食べるバーベキューにすれば、それまでシイタケ嫌いだった子供の多くが食べられるようになると言います。もちろん、大人でも同様で、私自身、それでシイタケ嫌いが克服出来ました。これもまた、キノコの不思議の一つだと言えそうです。
菌床栽培のキノコの美味しい食べ方
一方、菌床栽培のキノコも調理方法にちょっと気を付けるだけで、これまで以上の絶品食材となり、誰もが美味しく食べられます。少なくともシイタケ・エリンギ・エノキ・マイタケ・ブナシメジと言った庶民派キノコは水洗いしないのが鉄則。今回学んだように、何しろキノコは周囲の水分を吸収する生物です。そうなると、水洗いする事で水っぽくなってしまい、せっかくの香りやうま味成分が薄くなってしまうのです。食感も落ちますので、ナメコとマッシュルーム以外は水洗い厳禁です。
確かに、小さなお子さんのおられるご家庭などは、少々不安に思われるかも知れませんが、菌床栽培のキノコは衛生管理の行き届いた屋内で栽培されているため、体に悪影響を与えるようなゴミや土は殆ど付着していません。なので、シイタケやエリンギは傘の部分を軽くぬらしたキッチンペーパーで拭けば十分。ブナシメジやマイタケ、エノキなどは、石突きと一緒におがくずも切り落とすようにし、残った細かなゴミは手で払います。
次に、菌床栽培キノコの美味しい食べ方ですが、シイタケやエリンギのような傘の大きなキノコは、傘と柄を切り離し、傘の部分は焼き物、柄の部分は炒め物にするのがお薦め。まず、傘の表側から半分くらいの深さまで格子状に切れ目を入れ、裏返して中火で焼き始めます。そして、湯気が上がってヒダの部分から水滴が出て来たら焼き上がり! すぐに火から下ろして熱いうちに食べましょう。実は、ヒダから出て来る水滴こそがキノコのうま味成分なので、焼きすぎるとカラカラになるわ、パサパサになるわ、うま味はなくなるわで、典型的味も香りもない焼きキノコになってしまうのです。そこで、そういう事態を避けるべく、予め切れ目を入れ、速く裏まで火が通るようにしている訳です。
という事で、特にシイタケなどは、原木栽培でも菌床栽培でも焼いて食べるのが一番という事になるでしょう。ただし、柄の部分は加熱に時間が掛かるので、薄く切って強火で一気に調理するのがコツです。しかも、元々傘以上に栄養価の高いキノコの柄は、油との相性抜群で、肉や野菜と一緒に炒めたり、炒飯に入れる事で価値が増します。
ではでは、エノキやシメジ、マイタケなど、傘と柄を別々に使うのが難しいキノコはどうすれば美味しく食べられるのかというと、基本的には鍋料理です。キノコが主役のキノコ鍋でも構いませんが、最初は、すき焼きや水炊き、ちゃんこ鍋など、家族に人気の食材を使った鍋の脇役として使います。このとき、生のキノコではなく、事前に使いやすい大きさにカットした後、一晩冷凍室で寝かせて凍らせてから使うのがポイントです。そうすると、水分が膨張し、細胞壁を破壊しておいてくれるため、鍋の中でうま味成分がしみ出しながら美味しく解凍され、自他共に絶品の味が出せる事でしょう。
干しシイタケの魅力
もう一つ、美味しいキノコと言えば、忘れてならないのが原木栽培ものから作られる『干しシイタケ』です。干しシイタケと生シイタケ、やっぱり生の方が美味しいでしょうと思われるでしょう? でも、それが大間違いなんです。
ここで少し話が横道にそれますが、美食の国と言われるフランスや中国では、甘み・酸味・苦みと塩味の4つが味覚の要素として重要視されて来ました。ところが、私たち日本人は昔から、それプラス「うま味」という要素を持ち、それが日本独特のだしの文化を育てて来たとも言われています。そして、そのうま味を醸し出す三大成分が「グアニル酸」・「グルタミン酸」・「イノシン酸」という3つのアミノ酸です。そうなると、前述した通り、“香りマツタケ味シメジ”と言われるホンシメジは、グアニル酸とグルタミン酸の2つを豊富に含んでいる訳ですから美味しくて当たり前なんですよねぇ。
ところが、そんなホンシメジに負けず劣らずどころか、ホンシメジ以上にたっぷりのグアニル酸とグルタミン酸を含有しているのがシイタケです。ただし、生シイタケのグルタミン酸含有量は100gあたり僅か70mgで、グアニル酸においては、多のキノコ類と大差がない微々たる量しか含んでいないと見ていいでしょう。ですが、これが干しシイタケになると俄然、うま味アップします。グアニル酸の含有量はホンシメジに近い150mgまで増し、グルタミン酸の量は1060mgに増えるのです。さらに、乾燥する過程で加えられる酵素と熱により、『レンチオニン』という成分も急増します。このレンチオニンは、100万分の1g増えれば香りが10倍増すと言われるほど強力な匂いの元で、干しシイタケが生シイタケ以上に味も香りも優れている事は科学的にも認めざるを得ないとされています。
しかも、シイタケは干す事によって味と香りだけにとどまらず、栄養価も増します。特にビタミンDにおいては30倍増です。その他の主な栄養素も、
生シイタケ | 干しシイタケ | |
---|---|---|
食物繊維 | 4.2g | 5.5g |
カリウム | 270mg | 2100mg |
ビタミンD | 0.4μg | 12.7μg |
葉酸 | 75μg | 240μg |
なのですから、間違いなく生シイタケより干しシイタケの方が美味しいと言えそうです。
ところが、干しシイタケはイマイチ美味しくないとおっしゃる方は少なくありません。でも、それは、戻す時にしっかりとうまみ成分を引き出せていないだけで、戻し方のコツさえ覚えれば、きっと絶品のシイタケが食べられる事でしょう。しかも、コツと言っても、冷たい水を使って冷蔵庫で10時間程度戻すという事以外、特別なコツはありません。速い話、大きめの密閉容器にシイタケを入れ、ひたひたに被るまで5℃以下の冷水を注ぎ込んだら蓋を閉めて一晩寝かせるだけ。ですが、最初に使う水の音頭が高すぎるとうま味が十分引き出せず、長く水に浸けすぎると、苦み成分が出てしまいます。つまり、この辺りで案外しくじる事が多く、美味しい干しシイタケを食べそびれてしまうのです。
いかがでしたか?
キノコは野菜なのかという事から始まったキノコの不思議探検。随分興味を持ってもらえたのではないかと思います。そして、興味が湧いて来たら、キノコ嫌いも克服出来るはず。是非家族みんなで美味しくキノコを食べましょう。前述のように、キノコはお酒との相性もいいですから、特にこれからの季節、鍋やバーベキューの名脇役になってくれる事間違いなしで、お酒も美味しく健康的に飲めそうですよ。
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