何故、シイタケは人工栽培できて、マツタケは人工栽培できないの?
知れば知るほど不思議な生き物、それがキノコですが、腐生性キノコは庶民派キノコ、菌根性キノコは高級派キノコ、そう感じられた方も多いのではないでしょうか? 実際、シイタケにブナシメジ・エノキ・エリンギ・マイタケ・ナメコと、日本人に人気のキノコはどれも腐生性で、多量に出回っています。そして、1パック100円前後のお手頃価格! それに対し、中々支持率の上がらないマツタケやホンシメジ、トリュフといった菌根性キノコは、スーパーの店頭では限られた時期に限られた数しか並ばない高価な食材です。
腐生性キノコは人工栽培が可能!
腐生性キノコが庶民派になりやすいのには、ちゃんとそれなりの理由があります。何しろ彼らは、好物である木くずや枯れ葉があれば、それを酵素分解して生きられるのです。さらに、異なるDNAを持つ異性の一次菌糸同士が出会えば、その場で接合して二次菌糸となり、子実体を形成出来ます。これって、案外簡単に出来るような気がしませんか? そう、極端な話、箱におがくずを敷き、そこに胞子を撒いておけば、気が付けばキノコが生えているという事も十分有り得るでしょう。つまり、腐生性キノコは人工栽培が出来るのです。
ただ、胞子を撒いて発芽しても、同族菌糸ばかりでは豊作は期待出来ません。また、発芽を待つ時間ももったいないという事で、今は予め培養菌死を作り、それをおがくずに植え付ける事にしています。
さらに、ただのおがくずではなく、木くずを細かく粉末状にまで粉砕し、米ぬかや麦ぬかを加え、水分も豊富に含む状態のところに植え付けてやれば、キノコたちは大喜び!! 必死で酵素分解せずとも容易に豊富な栄養を吸収出来るため、速く美味しい子実態を沢山作ってくれるのです。
このようなキノコの人工栽培の方法を『菌床栽培(きんしょうさいばい)』と呼び、菌床とは、先のような環境の整った植え付け場所の事です。通常は20センチ四方くらいのブロックになっていますが、広い工場やハウスの中一面に菌床を並べ、年中キノコが好む湿度と室温さえキープしておけば、数ヶ月で立派な子実態が作られます。少しずつ時期をずらして植え付けと収穫を繰り返して行けば、1年をトウしてコンスタントに大量のキノコが出荷出来、庶民派価格として提供出来るという訳です。しかも、屋内栽培なので、天候に左右される事もありません。雨が多く、野菜不足が騒がれる時でも、キノコだけは安定した値段で出回っているのはそのお陰なのです。
菌根性キノコは人工栽培不可能?
ではでは、本音を言うとみんなたらふく食べたいマツタケやホンシメジ、トリュフなどは人工栽培出来ないものなのでしょうか? 特にマツタケなどは、その名の通り、マツの木があれば生えそうなもので、実際、彼らはアカマツに強い拘りを持っている訳ではないと言います。クロマツでも条件が整えば生育出来るのだそうですよ。
ただし、菌根性キノコは木々が光合成で作った養分をお裾分けしてもらうため、十二分な糖分生成の出来る健康体の木の根っこに生息しなければなりません。どんなに立派な木があっても、まだ未熟な若い木や年老いた木では、共倒れになってしまうのです。そのため、樹齢20年から50年の木に定着出来た胞子のみが生存出来るとされていて、最も実りが期待出来るのは、樹齢30年から40年の木。そうなると、21世紀に入ってから植えられたような木では菌根性キノコの豊作は期待出来ないという事になるでしょう。
ですが、林業の衰退に伴い、今の日本列島では、伐採や放置の進む林が続出しています。つまり、まつたけが最も生息しやすい昭和の終盤に命を得た木たちは、造成のために切られるか、手入れされずに枯れるかの二つに一つという運命にあって、仮に菌根性キノコの溶媒菌糸があったとしても、容易に栽培する事が出来ないと見られます。
夢のマツタケ人工栽培
マツタケを人工栽培で大量生産するには、樹齢30年から50年の立派な健康な生木を沢山準備しなければなりません。既存の林を手入れするか、人工的に林を作るかという事になり、後者はかなりの時間と土地が必要になります。しかし、前者もまた、今の日本の森林状況を考えると、中々難しいと言わざるを得ないでしょう。さらに、天然の林で栽培する以上、天候にも大きく左右されるという事で、菌根性キノコの安定供給は元々困難だと言って過言ではないのです。
ところが、そんな中、今年に入って韓国の国立山林科学院がマツタケの人工栽培に成功したという情報が飛び込んで来ました。その方法は、日本がシイタケの原木栽培の歴史の中で考え出した手法の一つによく似たもので、マツタケが生えた木の脇に新たな苗木を植え、マツタケの菌糸を感染させた苗木を作るというもの。確かに、その苗木を手頃な樹齢の木がある林に移植し、共生させる事でマツタケを増やせる可能性はあります。実際、2001年から2004年に150本のマツタケ菌糸入り苗木を植え、2010年には、そのうちの1本が見事に実りました。そして今年、3本が実り、世界新記録となったのです。
ちなみに、これまでのマツタケの人工栽培による収穫記録は1本で、1983年に日本の広島林業研究所が作ったものでした。それから間もなく四半世紀、ようやく今回、3本という新記録を達成した訳ですが、それでも、10年以上の歳月を掛けてたった3本ですから、話になりません。シイタケやエノキのように、人工栽培のマツタケが出回るのは、まだまだ夢また夢のようです。
さらに、トリュフにいたっては、未だ人工栽培自体が殆ど試みられていないと言います。その裏側には、元々自然に生息しているものを採取する事が困難で、その生態系を深く追求する事が出来ないからとの事。恐らく、マツタケにもそれは当てはまり、彼らの本性が掴みきれないために手間取っている部分は否めないでしょう。
その証拠に、同じ金鉱製キノコで、かつては希少価値の高かった「ホンシメジ」は、今や人工栽培可能になり、随分身近なキノコになりました。庶民派まで後一歩です。しかし、そのお陰で、シメジを巡る新たな問題が勃発しました。それは、これまでシメジとして大きな顔をして存在していた腐生性キノコのブナシメジとホンシメジの違いを巡る争いです。
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